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【イベントレポート】Deep Tech Forum Silicon Valley 2024

本レポートは、2024年10月15日にシリコンバレー(カリフォルニア州サンタクララ)で開催された「Deep Tech Forum Silicon Valley」のイベントレポートです。 Deep Tech Forumは、Monozukuri Venturesが主に北米で開催するディープテック・エコシステム向けのカンファレンスであり、開催地のエコシステムにおいて重要な役割を担う投資家や大企業が参加します。過去には、シリコンバレー、ニューヨーク、トロント、ピッツバーグなどで開催されてきました。詳しくは、Deep Tech Forumの公式サイト(英語のみ) https://deeptechforum.us/ にてご確認ください。

シリコンバレーは、世界中の大企業がCVC(コーポレートVC)を設立し、最新の技術革新を取り入れるための中心地として知られています。しかし、文化的な差異やビジネス慣習の違いが、これらの企業がシリコンバレーのスタートアップ・エコシステムに適応し、成功する上での大きな障壁となることも少なくありません。2024年10月15日に開催されたDeep Tech Forum Silicon Valleyでは、こうした文化的な課題に焦点を当て、企業とスタートアップがどのようにコラボレーションを強化し、グローバルなイノベーションを促進するかについて、基調講演とパネルディスカッションを通じて議論しました。 本イベントには企業や投資家などスタートアップ・エコシステムから100人以上の参加者が一堂に会し、今回のテーマ「CVCとVCの協働によるイノベーション推進」への関心の高さが伺えました。

基調講演:協働によるベンチャー投資 - CVCとVCがどのようにディープテックのイノベーションを推進するか

基調講演ではApplied MaterialsのCVCであるApplied Venturesのグローバルの責任者であるAnand Kamannavar氏が、ディープテック領域におけるVCとCVCの協力関係についての重要性を強調しました。Applied Materialsは、世界最大の半導体製造装置および材料技術を提供する企業の一つであり、半導体、ディスプレイ、ソーラー技術などの分野で革新的な技術を提供しています。特に、半導体製造プロセスにおいて重要な役割を果たしており、最先端の半導体デバイスを生産するための装置や技術をグローバルに展開しています。 Kamannavar氏は、企業がスタートアップとの関係を築く際に直面する課題や、技術革新を促進するためのベストプラクティスについて具体的な事例を交えながら語りました。

Applied VenturesのGlobal Headを務めるAnand Kamannavar氏

オープンイノベーションの重要性

Kamannavar氏は、スタートアップとの連携がどのように企業に新たな市場機会をもたらすかについて説明しました。特に、AI、ロボティクス、クリーンテクノロジーなどの分野でのオープンイノベーションが、持続可能な社会を実現する鍵となると指摘しました。

CVCとVCの相互補完的な役割

また、CVCとVCが共同で投資する際の利点についても触れ、CVCが持つ長期的な視点と、VCがもたらす短期的な資金回収目標が相互補完的であることを強調しました。これにより、スタートアップの成長が加速し、持続的な技術革新が可能になると述べました。

基調講演のまとめ

Kamannavar氏は、CVCとVCが異なる視点やリソースを持ちながらも、共通のゴールである革新的技術の発展を目指して協働できる点に焦点を当てました。特に、Applied Venturesがスタートアップに対して技術的支援や市場参入の機会を提供し、スタートアップの成長を後押ししている事例が紹介されました。

基調講演の全編は、以下の動画で視聴いただけます。

パネルディスカッション:「異文化間でのCVCアプローチを紐解く」

このパネルディスカッションでは、ドイツ企業、アメリカ企業、日本企業で活躍するCVCの現場のリーダーたちが集まりました。Lockheed Martin VenturesのXiaoming Yin氏をモデレーターに、異文化間でのCVC投資戦略や、各国の投資アプローチや文化的な課題について深く掘り下げました。

左からモデレーターのXiaoming Yin氏、Yvonne Lutsch氏、Sabeeha Islam氏、Thomas Kluz氏、Betty Briant氏

異文化の投資アプローチ:日本とアメリカの違い

トヨタグループWoven Planet HoldingsのCVCであるWoven CapitalのBetty Briant氏は、日米間のスタートアップ投資における文化的な違いを強調しました。特に、日本企業の投資意思決定プロセスは慎重で、スタートアップに対するアプローチがより段階的であることが課題であると指摘しました。一方、アメリカのCVCはよりリスクを取る姿勢が強く、スピード感を持って投資に取り組む傾向があります。この違いは、スタートアップとの初期段階での連携において重要な役割を果たしています。Woven Planetは、トヨタが次世代モビリティやスマートシティ技術の開発を目的として設立した部門で、Woven Capitalはその一環として、特にモビリティ、AI、ロボティクス、エネルギー、スマートシティ技術にフォーカスしたスタートアップに投資を行っています。

成功のカギは「信頼関係」:スタートアップとの連携

NGKスパークプラグのCVCであるNiterra VenturesのThomas Kluz氏は、スタートアップとの信頼関係が投資の成功を決定する重要な要素だと強調しました。彼は、スタートアップとCVCが長期的に協力するためには、透明性と持続的なコミュニケーションが不可欠であると述べました。また、企業の大規模さが時にスタートアップにプレッシャーをかけることがあり、CVCがスタートアップにとっての「サポーター」としての役割を果たすことが重要だと指摘しました。NGKスパークプラグは、主に自動車部品やセラミック製品で世界的に知られており、特にスパークプラグの分野で大きなシェアを持っています。Niterra Venturesは、同社の新たな成長領域を開拓するために設立され、主に自動車産業、クリーンエネルギー、医療技術、環境技術といった革新的な分野のスタートアップに投資しています。

スタートアップと事業部門のギャップ:CVCが果たす役割

独ミュンヘン再保険のCVCであるMunich Re VenturesのSabeeha Islam氏は、スタートアップと親会社の事業部門の間でしばしば生じるギャップに注目しました。特に、スタートアップのイノベーションが企業の既存のビジネスモデルにどのように適合するかが課題になることが多く、CVCはその橋渡し役として重要な役割を担っています。Islam氏は、Munich Re Venturesがどのようにスタートアップと親会社のコミュニケーションを促進し、双方が価値を最大化できるようにサポートしているかを具体的な事例で紹介しました。ミュンヘン再保険は、企業や政府に対して大規模な自然災害やリスクに対する保険を提供しており、その技術革新の一環として、Munich Re Venturesは主にリスク管理、保険テクノロジー、気候変動テクノロジーなどに関連するスタートアップに投資しています。

技術革新とCVC:ドイツにおける成功事例

独BoschのCVCであるBosch VenturesのYvonne Lutsch氏は、ドイツのCVCにおける成功事例をシェアしました。特に、Boschがどのようにディープテック分野での投資を進め、技術革新を促進してきたかに焦点を当てました。彼女は、CVCがスタートアップの技術的な優位性を認識し、事業部門と連携して市場に革新的な製品を投入するプロセスを解説しました。また、ドイツの企業文化における慎重なアプローチが、長期的な成功にどのように寄与しているかを強調しました。Boschは、自動車部品、産業技術、消費財、エネルギー・ビルディング技術などの分野で世界的に有名な企業であり、Bosch Venturesはこれらの領域における革新を支援するためにスタートアップへの投資を行っています。

異文化間のコミュニケーションと成功のための戦略

モデレーターを務めたLockheed Martin VenturesのXiaoming Yin氏は、日米欧のCVCの違いについてパネル全体で議論をリードしました。特に、異文化間でのコミュニケーションがいかに重要であり、それが成功のカギとなることを指摘しました。Yin氏は、Lockheed Martinがどのようにして異なる文化の中でスタートアップとの協力を進めてきたかを説明し、特に異文化理解の重要性を強調しました。スタートアップが技術革新を推進するために、CVCが異なる文化の壁を越えて協力するための戦略が求められると結論付けました。Lockheed Martinは、航空宇宙、防衛、セキュリティ、情報技術に強みを持ち、政府や民間企業向けに幅広い製品とサービスを提供しています。

スタートアップへの支援と投資リスクのバランス

Munich Re VenturesのSabeeha Islam氏は、スタートアップへの支援と投資リスクのバランスをどのように取るべきかについても触れました。Munich Re Venturesでは、スタートアップが技術を開発する際に直面するリスクを理解し、そのリスクを最小化するためにCVCがどのようにサポートできるかを説明しました。また、スタートアップが成長する過程で直面する課題に対して、長期的な視点を持って投資する重要性を強調しました。

クロスカルチャーCVCの未来:共同投資の可能性

Niterra VenturesのThomas Kluz氏は、異文化間CVCの未来についても意見を述べました。特に、日本やヨーロッパのCVCがアメリカのスタートアップに対して行う共同投資の機会が今後増える可能性が高いと述べました。彼は、国際的なスタートアップ・エコシステムがより一体となることで、技術革新が加速し、新たなビジネスモデルが生まれると予想しています。

パネルディスカッションのまとめ

Deep Tech Forum Silicon Valleyのパネルディスカッションでは、異文化間でのCVC投資アプローチに関する多くの重要な洞察が共有されました。パネリストたちは、スタートアップとの信頼関係の構築、技術革新の促進、そして異文化理解の重要性について強調し、参加者にとって実り多いディスカッションとなりました。

パネルディスカッションの全編は、以下の動画で視聴いただけます。

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