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【イベントレポート】Deep Tech Forum NYC 2025

本レポートは、2025年1月22日にニューヨークで開催された「Deep Tech Forum NYC」のイベントレポートです。 Deep Tech Forumは、Monozukuri Venturesが主に北米で開催するディープテック・エコシステム向けのカンファレンスであり、開催地のエコシステムにおいて重要な役割を担う投資家や大企業が参加します。過去には、シリコンバレー、ニューヨーク、トロント、ピッツバーグなどで開催されてきました。 詳しくは、Deep Tech Forumの公式サイト(英語のみ)にてご確認ください。

2025年1月22日、ニューヨークのコーネル・テックにて、「Deep Tech Forum NYC 2025」が開催されました。本イベントは、日本企業のグローバル展開戦略と、ディープテック分野における市場参入をテーマに、日米の主要プレイヤーが一堂に会しました。New York Robotics Networkとの共催のもと、日本の大手企業、スタートアップ、投資家が集まり、最新のテクノロジートレンドや市場機会について議論が交わされました。 本フォーラムでは、日本の海運・エネルギー・製造業を代表する企業によるプレゼンテーションが行われ、特に脱炭素・AI・自動化技術の活用に焦点が当てられました。また、ニューヨークのテック・エコシステムの発展についての基調講演や、日米間のスタートアップコラボレーションを促進するためのVCパネルも実施され、今後の協業の可能性について活発な議論が行われました。

基調講演:「ニューヨークのテックエコシステムとグローバル展開の可能性」

基調講演を行ったJulie Samuels氏は、Tech:NYCのCEOとして、ニューヨークのテック業界の成長を牽引するリーダーの一人である。2016年の設立以来、Tech:NYCをニューヨーク市のスタートアップ・テクノロジー業界の主要な支援組織へと発展させ、政策提言やエコシステム強化に尽力してきた。以前は、全米規模のテクノロジー政策団体であるEngineのエグゼクティブ・ディレクターを務め、その後も電子フロンティア財団(EFF)のシニアスタッフ・アトーニーとして活動するなど、テクノロジー分野における政策とスタートアップ支援の両面で豊富な経験を持つ。

Tech:NYCのCEOを務めるJulie Samuels氏の基調講演

ニューヨーク市は、過去10年間で世界のテクノロジー拠点として急成長を遂げており、今やフィンテック、ヘルステック、AI、気候テックなどの分野で世界有数のイノベーション都市としての地位を確立しています。本セッションでは、Tech:NYCのCEOであるJulie Samuels氏が、ニューヨークのテックエコシステムの特徴と、日本企業がこの環境をどのように活用できるかについて講演を行いました。 ニューヨークはシリコンバレーと異なり、伝統産業とテクノロジーが融合する都市であり、多様な業界の大手企業がスタートアップと連携し、新規事業を創出する場として機能しています。特に、以下のポイントが強調されました。

ニューヨークのスタートアップエコシステムの成長

・近年、ニューヨークはフィンテック、ヘルステック、クリーンテックの分野で著しい成長を遂げている。 ・大手金融機関、病院、製造業とスタートアップが連携しやすい環境が整っており、研究開発と商業化が短期間で進む強みがある。 ・特に、ロボティクス、AI、エネルギー分野において、スタートアップと企業の協業が加速している。

ニューヨークのエコシステムと日本企業の接点

・日本企業がニューヨークのエコシステムを活用することで、米国市場への展開が加速する。 ・ニューヨークには、Empire AIプロジェクトをはじめとする、スーパーコンピュータやAI研究開発拠点があり、データ活用の最前線として世界的に注目されている。 ・既存の投資家ネットワークを活用し、日本企業が直接スタートアップと接点を持つ機会が増えている。 Samuels氏は、「ニューヨークは、多様な産業が交差し、イノベーションが生まれる場である」と述べ、日本企業にとってもこの環境を活用することが競争力の向上につながることを強調しました。

VCによるパネルディスカッション:「米国スタートアップと日本市場の接点」

右からモデレーターのJeff Smith氏(SIP Global Partners)、パネリストのJoanne Wong氏(REDDS Capital)、Oliver Mitchell氏(ff Venture Capital)、Tristan Bel氏(Anywhere Ventures)

本セッションでは、米国のディープテックスタートアップがどのように日本市場へアプローチすべきか、また日本企業がどのように米国のスタートアップエコシステムと連携できるかについて、日米の投資家が議論を交わしました。

日本市場への進出戦略

・スタートアップが日本市場に参入する際に直面する課題として、ビジネス文化の違い、規制、企業との関係構築のプロセスが挙げられた。 ・しかし、日本市場は高品質な製品・技術を評価する傾向があり、信頼を構築できれば長期的なパートナーシップを築ける。 ・日本企業との協業を進めるためには、CVCや既存のネットワークを活用し、スタートアップの技術がどのように活用できるかを明確に示すことが重要。

日米スタートアップ・エコシステムの違い

・日本では大企業主導のオープンイノベーションが主流である一方、米国ではスタートアップが独立したビジネスモデルを持ち、積極的に資金調達を行う文化がある。 ・米国では、特に気候テクノロジー、ロボティクス、AI関連の投資が活発化しており、日本企業との協業機会が増えている。 ・米国の投資家は、日本企業の製造業分野での強みを評価しており、特に気候テクノロジーとロボティクス分野において、日本企業とのパートナーシップを求める声が多かった。 パネルディスカッションの最後には、今後の日米協業の可能性について議論が交わされ、「日本企業はより多くのスタートアップと直接対話し、投資家を介したエコシステム構築を進めるべきだ」との意見が多くのパネリストから出されました。

日本企業によるリバースピッチ

本イベントでは、日本総領事館による協賛のもと、日本の製造業、エネルギー、海運業などを代表する企業が、自社の技術課題や求めるパートナーシップの方向性についてリバースピッチを実施しました。日本企業がスタートアップとの協業機会を模索する中で、具体的な課題とニーズが明示されたことで、米国の投資家やスタートアップとの新たな連携の可能性が生まれました。

I-PEX: 精密成形技術とEVバッテリーの再利用

・I-PEXは、精密成形技術を活かした次世代コネクタや電子部品の開発を進めており、特にEVバッテリーのリユースによるポータブル電源事業に注力している。 ・自動車・エレクトロニクス分野において、軽量化・高耐久性・高性能な接続技術のニーズが拡大しており、EVの二次利用技術の開発とともに、米国のクリーンテック・スタートアップとの連携を模索している。 ・I-PEXの精密製造技術と米国のスタートアップのバッテリー管理技術を組み合わせることで、新たなエネルギー活用の可能性を探る。

Weathernews: 気象データを活用した気候リスク分析と産業最適化

・Weathernewsは、気象データを活用した産業向けソリューションを提供しており、特に気候リスク管理、物流の最適化、エネルギー予測の分野で技術革新を推進。 ・Googleとの提携を通じ、気候データをGoogle Mapsで提供する取り組みを進め、海運・航空・陸上輸送業界における気象リスク軽減のソリューションを強化。 ・AIを活用したリアルタイム気象解析により、異常気象への対応・持続可能な都市開発・エネルギー需給管理に貢献し、米国のスマートシティ・インフラ企業との連携の可能性を探っている。 他にも、以下の日系企業がリバースピッチを実施し、ニューヨークのスタートアップ・エコシステムへ積極的にアピールしていた。 ・飯野海運株式会社(IINO Lines) ・ENEOS株式会社(ENEOS) ・日本郵船株式会社(NYK Group) ・住友化学株式会社(Sumitomo Chemical) ・日本電気株式会社(NEC) ・三菱電機オートメーション株式会社(Mitsubishi Electric Automation) ・三洋化成工業株式会社(Sanyo Chemical) ・ナブテスコ株式会社(Nabtesco) ・住友重機械工業株式会社(Sumitomo Heavy Industries) ・積水化学工業株式会社(Sekisui Chemical) ・出光興産株式会社(Idemitsu)

JETROと横浜市による特別セッション

JETRO New Yorkと横浜市米州事務所がそれぞれ日本企業の海外進出支援、および横浜市が進めるテック関連施策について紹介しました。

JETRO New Yorkによるプレゼンテーション

日本企業の海外展開支援として、JETROのアクセラレーションプログラムやスタートアップ支援の取り組みを紹介。 ・「日本企業がオープンイノベーションを推進するには、投資家ネットワークやアクセラレーターを活用し、ローカルエコシステムに積極的に参画することが重要」とコメント。 ・具体的な事例として、米国市場進出を果たした日本企業の成功モデルを紹介。

横浜市のテック支援施策

・横浜市は、国内外のスタートアップとの連携を加速し、ディープテックのハブ都市としての地位を強化している。 ・特に、横浜の製造業とグローバルスタートアップとのマッチング機会を創出し、オープンイノベーションを促進する施策について発表。 ・2025年3月にはDeep Tech Forum Yokohamaを開催予定であり、さらなる国際的な連携の機会が提供されることが強調された。 JETROと横浜市のセッションを通じて、日本企業が米国でオープンイノベーションを推進するための具体的な支援策と、地域ごとのエコシステムの活用方法が示されました。

クロージングセッション

フォーラムの最後には、在ニューヨーク日本国総領事館の森 美樹夫大使・総領事によるクロージングスピーチが行われ、日本企業と米国スタートアップの協業の重要性が再確認されました。

日本政府によるスタートアップ支援の方向性

・日本政府はグローバル展開を視野に入れたスタートアップ支援を強化しており、本フォーラムのような国際的なマッチングイベントの意義を強調。日本の技術力と米国のスタートアップの機動力を組み合わせ、新たな産業の創出を期待するとのメッセージが発信された。 本フォーラムを通じて、日米のテクノロジーエコシステムの連携強化が具体的に議論され、今後のさらなる協業の可能性が見えてきました。

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