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【イベントレポート】大企業のオープンイノベーション最前線~ベンチャークライアントモデルやCVCを活用したスタートアップ連携~
2025年6月18日、ロフトワークとMonozukuri Venturesの共催イベントが開催されました。このイベントでは、大企業が直面するスタートアップ連携のリアルな課題と、次なる実践的なアプローチについて活発な議論が行われました。
イベントでは多角的な視点から知見が共有されました。ロフトワークからは事業創出の実例が、Monozukuri Venturesからは投資・事業伴走の現場で得られた経験が紹介されました。
また、ベンチャークライアントモデル伝道者の木村将之氏による講演とクロストークも実施されました。
議論の内容は、CVCやベンチャークライアントモデル(VCM)の役割から、ビジョンの持ち方、人材・組織への落とし込みまで幅広く、現場目線の実践的な知見が豊富に語られました。
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オープニングメッセージ
イベントの冒頭では、ロフトワーク代表取締役社長の諏訪氏が登壇しました。同社がこれまで共創してきた企業との事例を紹介しました。未来構想型のビジョン設計や、柏の葉KOIL・渋谷QWSなどのイノベーションスペースの取り組みが特に注目を集めました。
諏訪氏は企業のオープンイノベーションの現状について振り返り、従来手法の限界を指摘しました。社内起業やCVCなどの既存アプローチには課題があると説明し、具体的には以下の点を挙げました。
・既存組織の文化や構造が新規事業の成長を妨げること
・財務主導の外部人材による戦略では社内アセットとの乖離が生じやすいこと
・失敗へのリスク回避志向が意思決定を鈍らせること
こうした課題を乗り越える新たなアプローチとして、諏訪氏はベンチャークライアントモデルを紹介しました。ロフトワーク自身の強みについては、ゼロから1の創出(事業の立ち上げ段階)を得意としており、投資先の選定やデザインリサーチなどを通じた戦略的な支援を行っていると説明しました。
Talk「ロフトワークの実践紹介」~新規事業創出におけるビジョン策定の考え方~
ロフトワーク執行役員/CPO(Chief Produce Officer)の棚橋氏は、企業が新規事業を創出するにあたって、「ビジョン策定」が極めて重要であると強調しました。ビジョンとは単なるスローガンや理想ではなく、「自分たちは何を実現したいのか」を自らの言葉で語り、他者にも見せられる形にすることで初めて共有可能な指針となるといいます。
ロフトワークでは、デザイン思考やシステム思考を取り入れ、さまざまな企業と共に事業開発や社会課題・環境課題の解決に取り組んできました。中でも、NECやSMBCと連携したプロジェクトがその代表例です。特に、SMBCと共に進めている「Green Innovation for the Planet(GIP)」では、エコシステムの形成を前提とした未来ビジョンを策定し、その実現に向けてコミュニティ運営を継続的に行っています。
棚橋氏は、ビジョン策定にあたって
「未来は構想してつくるもの」
「多様な可能性を前提に考える」
「能動的に他者を巻き込む」
という3つの姿勢が不可欠であると述べました。
これは抽象的な理想論ではなく、実際の事業創出を着実に前進させるための実践的な視点です。
また、棚橋氏は課題を捉える際には、表面化した事象だけでなく、その背後にある構造や価値観に着目することが重要だと指摘します。そのための手法として「氷山モデル」や「システミックループ図」を活用し、課題の根本的な要因を可視化した上で、どこに介入すべきかを明確にするアプローチを紹介しました。
さらに、ビジョンは描いただけでは機能しないため、言語化や可視化を行い、イベントやプロトタイピングを通じてフィードバックを得ながらブラッシュアップしていくプロセスが不可欠であると述べています。こうした反復的な検証と調整を重ねることで、ビジョンは戦略の指針として、また組織内での共通言語として、具体的に機能するようになるといいます。
棚橋氏の講演は、ビジョン策定が単なる理念づくりにとどまらず、組織や事業に実際の変化をもたらすための構造的・戦略的な手法であることを示しました。
Monozukuri Venturesから見た現場の摩擦
続いて、Monozukuri Venturesの横溝から、大企業とスタートアップの連携が進まない"摩擦の構造"について、現場で実際に起きているリアルな課題が共有されました。
多くの企業が直面する失速要因として、大企業とスタートアップでは、文化も言語も、重視する価値観そのものが異なるという点が挙げられ、具体的な事例を交えながら説明がありました。これらの課題は、決して特殊なものではなく、日本の大企業が共通して抱える構造的な問題であることが明らかになりました。
こうした課題に対して横溝は、技術面だけにとどまらず、人材や組織設計、商品化、人事制度にまで踏み込んだ「事業開発人材」の伴走支援の重要性を指摘。単なる技術的な支援だけでは連携は成立せず、組織全体での取り組みが必要だという視点が示されました。
この問題意識を踏まえ、Monozukuri Venturesでは「モノづくりイノベーションラボ」の取り組みとして、現状を可視化する診断ツールの提供や、リアルイベント・サロンといった継続的な支援プログラムの展開も発表されました。
Keynote:木村将之氏が語る「世界が注目する調達型共創モデル、ベンチャークライアントモデルとは?」
イベントのメインセッションでは、ベンチャークライアントの木村氏が「ベンチャークライアントモデル(以下、VCM)」の全体構造について詳しく解説されました。VCMとは、「スタートアップの顧客になる」ことで連携を進めるモデルであり、従来の出資よりも速く・低コストで・多数の実証を行える手法として注目されています。
木村氏は、VCMの実行ステップを次のように説明しました。
まず、自社のビジョンと取り組むべき課題領域を明確に定めます。次に、世界中から最適なスタートアップを選定。500万円以下の少額トライアル発注による実証を行います。効果が確認できれば、迅速に導入・本格展開へと進みます。
このVCMの導入することで、従来の「スタートアップ起点」で行われていた連携(成功率10%未満)から、「大企業の課題起点」へと発想を転換することができ、成功率を50%以上にまで高めることが可能になると説明されました。
海外の成功事例として、BMWやSiemensの導入事例が紹介されました。これらの企業では、年間数十件の導入を実現し、数十億円から数百億円の経済効果を生み出しているとの説明がありました。
Cross Talk:「これからのオープンイノベーションの実践的なアプローチ」
クロストークでは、木村氏、棚橋氏、ロフトワーク岩沢氏、そしてMonozukuri Ventures牧野が登壇し、オープンイノベーションの現状と今後の展望について、実践的かつ深い議論が交わされました。
議論の中では、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)、VCM(ベンチャークライアントモデル)、共創プログラムなどの手法は、単独で使うものではなく、組み合わせて戦略的に活用すべきツールであるという見解が示されました。それぞれのアプローチには適した場面があり、企業の状況や目的に応じて柔軟に使い分けることが重要だという共通認識が得られました。
また、成功の鍵として挙げられたのが、「信頼できる社外パートナーの可視化」と「社内における組織内対話の深化」です。特に日本企業においては、“本音で開示・共有できる関係性”を築くことが不可欠であると指摘されました。
さらに、スタートアップとの連携そのものが目的化してしまうリスクについても議論が及び、「何のために連携するのか」という本質的な問いを常に持ち続けることの重要性が強調されました。手段と目的を混同せず、戦略的な意図に基づいて連携を進める姿勢が、登壇者全員によって確認されました。
オープンイノベーション推進の突破口として
現在の取り組みに行き詰まりを感じている方や、「何から始めればいいのか分からない」とお悩みの方へ。まずは、現状を客観的に把握することから始めてみませんか?
製造業におけるスタートアップ連携の課題を解決するため、Monozukuri Venturesとロフトワークは、製造業のオープンイノベーション推進を支援する新たなプラットフォーム
「モノづくりイノベーションラボ(Monozukuri Innovation Lab、以下 MIL)」 をイベント当日に共同で立ち上げました。
詳しくは、こちらのニュース記事をご覧ください。
イベントのご案内
Monozukuri Venturesでは、グローバルな視点でのオープンイノベーションをさらに深掘りする「Deep Tech Forum」を開催予定です。特設ページはこちらから
次回は2025年9月、ニューヨークにて開催を予定しており、スタートアップ、大企業、投資家、政策関係者など500名以上の参加を見込んでいます。 本イベントでは、製造・物流を「コストセンター」から「戦略的成長の源」へと転換するという視点からスタートアップ・投資家・大企業・政府関係者・自治体などが一堂に会し、展示とカンファレンスを同一フロアで同時開催することで、技術と戦略、そして協業のリアルな出会いを創出します。 最新情報や参加申し込みについては、下記特設ページをご覧ください。 ▶Deep Tech Forum当社ニュースレターへご登録下さい。
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