Monozukuri Venturesの投資領域であるハードウェアに投資している日本企業のCVCファンドを調査しました。
今回の調査では、ハードウェアが投資領域に入っている、もしくは実際にハードウェア系のスタートアップに投資した実績があるファンドを対象としています。
メーカーなどハードウェア系の企業が持つCVCでも、投資領域としてハードウェアを含めていないものはカウントしていません。
結果として123個のCVCファンド(1社で複数のファンドも含む)をリサーチしたものになり、全体の傾向と業界/業種別でのリストや傾向をまとめています。
企業から公式に発表されている情報を基に独自にMZVの投資チームが調査・集計しているため、発表されていないものについては記載していません。
全体の傾向
設立年を基準に、各年のファンド設立数とその総額をリサーチしたものが以下の表になります。ファンドの設立は確認できたものの、設立年やファンド額が公表されていないものもあり、詳細が確認できたものでファンド額等を計算しています。また、2023年は3月時点での結果になっています。
以下の表を見ると分かるように、2018年にハードウェアに投資するファンドの設立数が2ケタになってからは、20前後のファンドが毎年、設立されています。調査では全部で123個のCVCファンドを確認していますが、2020年から2022年の3年間で、そのほぼ半分にあたる61個のファンドが設立されています。
設立年 |
ファンド数 |
ファンド額(億円) |
備考 |
〜2012年 |
5 |
未公表 |
5件がファンド額不明 |
2013年 |
1 |
8.5 |
- |
2014年 |
3 |
71 |
1件がファンド額不明 |
2015年 |
1 |
15 |
- |
2016年 |
7 |
180 |
3件がファンド額不明 |
2017年 |
3 |
94 |
1件がファンド額不明 |
2018年 |
12 |
938 |
4件がファンド額不明 |
2019年 |
18 |
1,002 |
5件がファンド額不明 |
2020年 |
17 |
1,794 |
3件がファンド額不明 |
2021年 |
24 |
1,855 |
3件がファンド額不明 |
2022年 |
20 |
1,421 |
4件がファンド額不明 |
2023年 |
4 |
330 |
- |
設立年不明 |
8 |
未公表 |
- |
合計 |
123 |
7,708.5 |
37件がファンド額不明 |
※ドル表記で公表されているものは、1ドル130円で計算
※1 123個のうち86個のCVCファンドでの結果を表示(37個はファンド額未公表のため)
表の結果をグラフで表したものです。2018年頃からCVC設立が顕著になり始め、2021年が件数・ファンド額ともにピークに達しています。
また、業界別でハードウェア投資を行っているCVCの件数を表したものが上記のグラフになります。グラフの通り、常にハードウェアとの関わりが強い業界ほど多くのCVCが存在していることがわかります。
さらに、業界ごとに設立年の傾向があるか示したものが上記のグラフです。横軸が%表記になっているのは、「その年設立されたファンド数 / その業界全体で確認できたファンド数」で各年、表しているためです。
このグラフを見ると、全体の傾向とはまた違った傾向が見えてきます。メーカー・金融・マスコミ業界は全体と同様に2021年に設立されたファンドが多くなっています。しかし、サービス・商社業界では2019年に、IT業界では2022年に設立されたファンドが多くなっています(参考:下グラフ)。
IT業界のCVC設立時期はより早い時期ですが、最近になってハードウェアにも投資領域を広げるCVCファンドが増えてきたということです。
業界/業種別
メーカー・金融・商社・サービス・マスコミ・ITという6つの業界に分け、それぞれの業界ごとにCVCリストや傾向を紹介します。
メーカー
メーカー業界では69個のCVCファンドが確認できました。その中で業種を分けて分野ごとの傾向をまとめたものが以下のグラフです。
ファンド数では繊維/化学/薬品/化粧品分野が最も多く、20個のファンドが確認できました。
一方、ファンド額では電子/電気機器分野が最も大きく、1,467億円となっています。この2つはハードウェアに関わる企業が数多く存在する業種なので、このような結果になったと考えられます。
自動車/輸送用機器もハードウェアとの関わりが強い分野ですが、トヨタやホンダ、ルノー・日産・三菱の3社合同で出資を行っているAlliance Venturesといった主要企業のファンド額が未公表のため、他の分野に比べて少ない結果になっています。実際は518億円を大きく上回るファンド額になると考えられます。
以下、それぞれの業種で確認できたCVCのリストになります。
繊維/化学/薬品/化粧品
CVCの件数で見るとこの業界が最も多く、20個のファンドが確認できました。設立年を基準に傾向をグラフにしたものが以下になります。大きな傾向は見られないものの、全体の傾向と同じく2021年がファンド設立件数・ファンド額ともに最大になっています。
企業名 |
設立年 |
ファンド額 |
アステラス製薬 |
2006 |
未公表 |
旭化成 |
2008 |
未公表 |
資生堂 |
2016 |
30億円 |
そーせいグループ |
2016 |
20億円 |
DIC |
2016 |
未公表 |
武田薬品 |
2018 |
180億円 |
ポーラ |
2018 |
未公表 |
MTG |
2018 |
50億円 |
エーザイ |
2019 |
150億円 |
大鵬薬品 |
2019 |
10億円 |
太陽ホールディングス |
2020 |
3000万ドル |
日本特殊陶業 |
2021 |
1億ドル |
メディパルホールディングス |
2021 |
100億円 |
三菱ケミカル(プラットフォームファンド) |
2021 |
1億5000万ドル |
三菱ケミカル(フロンティアファンド) |
2021 |
5000万ドル |
小野薬品工業(小野デジタルヘルス) |
2022 |
50億円 |
スズケン |
2022 |
50億円 |
富士フイルム |
2022 |
70億円 |
三井化学 |
2022 |
50億円 |
デンカ |
2023 |
130億円 |
小野薬品工業(Ono Venture Investment) |
未公表 |
未公表 |
日本ゼオン |
未公表 |
未公表 |
合計 |
|
1,319億円 |
※ドル表記で公表されているものは、1ドル130円で計算
電子/電気機器
繊維/化学/薬品/化粧品分野に次いでファンド数が多いのがこの分野です。ファンド額だけで見ると、この分野が最も大きくなっています。
設立年を基準に傾向をグラフにしたものが以下になります。全体の傾向とは異なり、2022年がファンド数・ファンド額ともに最大となっています。また、2020年から増加傾向が続いていることも分かります。
企業名 |
設立年 |
ファンド額 |
東京エレクトロン |
2006 |
未公表 |
ニコン |
2016 |
100億円 |
ソニー(Innovation Growth Fund) |
2019 |
160億円
|
ダイキン
| 2019
| 110億円
|
東芝テック
| 2019
| 未公表
|
TDK
| 2019
| 5000万ドル
|
セイコーエプソン
| 2020
| 50億円
|
ソニー(Innovation Fund:Environment)
| 2020
| 10億円
|
日立製作所
| 2021
| 1億5000万ドル
|
富士通
| 2021
| 100億円
|
ローム
| 2021
| 50億円
|
オムロン
| 2022
| 50億円
|
ソニー(Innovation Fund 3)
| 2022
| 265億円
|
パナソニック
| 2022
| 80億円
|
三菱電機
| 2022
| 50億円
|
リコー
| 2022
| 未公表
|
NEC
| 2022
| 1億4000万ドル
|
合計
|
| 1,467億円
|
※ドル表記で公表されているものは、1ドル130円で計算
自動車/輸送用機器
企業名 |
設立年 |
ファンド額 |
デンソー |
2014 |
未公表 |
アイシン |
2018 |
55億円 |
ヤマハ発電機 |
2018 |
113億円 |
ACSL |
2020 |
10億円 |
トヨタ紡織 |
2021 |
50億円 |
トヨタ(トヨタベンチャーズ) |
2021 |
160億円 |
スズキ |
2022 |
1億ドル |
トヨタ(Woven Capital) |
未公表 |
未公表 |
ホンダ |
未公表 |
未公表 |
ルノー・日産・三菱(Alliance Ventures) |
未公表 |
未公表 |
合計 |
|
518億円 |
※ドル表記で公表されているものは、1ドル130円で計算
食品/農林/水産
企業名 |
設立年 |
ファンド額 |
味の素 |
2020 |
未公表 |
キリンホールディングス |
2020 |
50億円 |
サントリー |
2021 |
未公表 |
アサヒグループ |
2022 |
96億円 |
神戸物産 |
2022 |
未公表 |
合計 |
|
146億円 |
鉄鋼/金属/鉱業
企業名 |
設立年 |
ファンド額 |
三井金属鉱業 |
2017 |
50億円 |
菊池製作所 |
2019 |
26億円 |
三菱マテリアル |
2019 |
10億円 |
アルコニックス |
2021 |
30億円 |
合計 |
|
116億円 |
機械/プラント
企業名 |
設立年 |
ファンド額 |
三菱重工 |
2018 |
未公表 |
日揮 |
2021 |
50億円 |
ヤンマー |
2021 |
未公表 |
合計 |
|
50億円 |
建設/住宅/インテリア
企業名 |
設立年 |
ファンド額 |
カシワバラ・コーポレーション |
2019 |
未公表 |
清水建設 |
2020 |
100億円 |
フソウ |
2020 |
50億円 |
合計 |
|
150億円 |
精密/医療機器
企業名 |
設立年 |
ファンド額 |
アークレイ |
2021 |
100億円 |
オリンパス |
2021 |
55億円 |
合計 |
|
155億円 |
印刷/事務機器関連
企業名 |
設立年 |
ファンド額 |
凸版印刷 |
2016 |
未公表 |
DNP |
2019 |
未公表 |
スポーツ/玩具
企業名 |
設立年 |
ファンド額 |
アシックス |
2016 |
30億円 |
サービス
サービス業界では17個のCVCファンドが確認できました。それを業種ごとで比較したものが以下のグラフです。ファンド数・ファンド額ともに鉄道/航空/運輸/物流分野が最大になっています。ロボットなど多くのハードウェアを活用するので、このような結果になっていると考えられます。
鉄道/航空/運輸/物流
ハードウェアに関わる機会の多いこの分野では、実際に著名なハードウェア・スタートアップへの投資が確認できました。
例えば、商船三井はCVCを通して、倉庫でのピッキング作業効率化を図るロボットと一連のシステムを開発しているrapyuta roboticsへ出資しています。
一方、今回のリサーチではロボット系の企業のCVCファンドが確認できませんでした。安川電機と川崎重工はMonozukuri Venturesが出資しているugo社に出資していますが、どちらもCVCファンドを通してではなく、本来からの直接出資という形をとっています。
企業名 |
設立年 |
ファンド額 |
日本郵政グループ |
2017 |
未公表 |
日本航空 |
2019 |
7000万ドル |
JR西日本 |
2019 |
30億円 |
セイノーホールディングス |
2020 |
100億円 |
東急グループ |
2020 |
未公表 |
ヤマトホールディングス |
2020 |
50億円 |
商船三井 |
2021 |
40億円 |
阪急阪神ホールディングス |
2021 |
30億円 |
NIPPON EXPRESS |
2023 |
50億円 |
合計 |
|
391億円 |
※ドル表記で公表されているものは、1ドル130円で計算
電力/ガス/エネルギー
企業名 |
設立年 |
ファンド額 |
関西電力 |
2018 |
110億円 |
東京電力 |
2018 |
未公表 |
中部電力 |
2019 |
50億円 |
ENEOSホールディングス |
2019 |
150億円 |
合計 |
|
310億円 |
不動産
企業名 |
設立年 |
ファンド額 |
三井物産 |
2020 |
85億円 |
三菱地所 |
2022 |
100億円 |
合計 |
|
185億円 |
フードサービス
企業名 |
設立年 |
ファンド額 |
ヨシックス |
2021 |
未公表 |
医療/福祉
企業名 |
設立年 |
ファンド額 |
M3 |
2019 |
100億円 |
金融
金融業界は多くの投資枠がありますが、ハードウェアに投資をしているCVCファンドということで絞ると、18個のファンドが確認できました。この業界の特徴としては、ファンド額が他の業界に比べて大きいものが多く、また設立年もかなりまとまっていることが挙げられます。
銀行/証券
企業名 |
設立年 |
ファンド額 |
三井住友銀行(イノベーティブベンチャー) |
2012 |
未公表 |
三菱UFJ銀行(OiDEファンド) |
2013 |
8.5億円 |
三井住友銀行(産学連携) |
2016 |
未公表 |
みずほ銀行 |
2020 |
100億円 |
三菱UFJ銀行(メディカルファンド) |
2020 |
100億円 |
SBIインベストメント(4+5ファンド) |
2020 |
1000億円 |
三井住友銀行(6号投資ファンド) |
2020 |
未公表 |
京都信用金庫(京信イノベーション2号) |
2021 |
5億円 |
みずほ銀行(成長支援4号) |
2021 |
100億円 |
三菱UFJ銀行(8号ファンド) |
2021 |
150億円 |
静岡銀行 |
2022 |
30億円 |
合計 |
|
1,493.5億円 |
生保/損保
企業名 |
設立年 |
ファンド額 |
損害保険ジャパン日本興亜 |
2017 |
44億円 |
MS&AD Ventures |
2018 |
未公表 |
三井住友海上火災保険 |
2021 |
100億円 |
東京海上ホールディングス |
2022 |
48億円 |
日本生命保険 |
2023 |
100億円 |
明治安田生命保険 |
2023 |
50億円 |
Aflac |
未公表 |
未公表 |
合計 |
|
342億円 |
商社
総合商社
企業名 |
設立年 |
ファンド額 |
双日 |
2019 |
未公表 |
丸紅 |
2019 |
50億円 |
住友商事 |
2022 |
未公表 |
三井物産 |
未公表 |
未公表 |
合計 |
|
50億円 |
マスコミ
広告
企業名 |
設立年 |
ファンド額 |
アドウェイズ |
2011 |
未公表 |
博報堂 |
2019 |
未公表 |
電通 |
2021 |
100億円 |
放送
企業名 |
設立年 |
ファンド額 |
朝日放送 |
2015 |
15億円 |
TBS |
2018 |
30億円 |
合計 |
|
45億円 |
IT
通信
企業名 |
設立年 |
ファンド額 |
KDDI(Open Innovation Fund 2号) |
2014 |
50億円 |
KDDI(Open Innovation Fund 3号) |
2018 |
200億円 |
NTT |
2018 |
200億円 |
KDDI(Green Partners Fund) |
2021 |
50億円 |
NTTドコモ |
2022 |
150億円 |
合計 |
|
650億円 |
ソフトウェア
企業名 |
設立年 |
ファンド額 |
インフォコム |
2014 |
21億円 |
BIPROGY |
2020 |
50億円 |
SEKAISHA |
2022 |
20億円 |
SOLIZE |
2022 |
未公表 |
デジタルガレージ |
未公表 |
未公表 |
合計 |
|
91億円 |
今回はハードウェアに投資するファンドの数を調査しました。当初チームが思っていたよりも多くの企業が、ハードウェア系スタートアップへの投資に関心を持っていることが分かりました。
STARTUP DBによる調査によると、2017年から2021年の5年間で、「国内CVCにおける投資件数は、5年間で118社から361社と306%成長」したとのこと。
一方で、ハードウェア系スタートアップの数は、ソフトウェア/SaaS系スタートアップに比べて少ないのも事実です。
今後の調査では、CVCからのハードウェア系スタートアップへの投資トレンドを調べていきたいと思います。
調査:投資部門インターン山本(監修: 関 信浩)
Monozukuri Venturesでは、ハードウェア・ハードテック特化型のVCからみた、製造業・ハードウェア業界動向のご紹介をしています。ご興味のある方はこちらの当社ニュースレターへご登録下さい。