ハードウェア・スタートアップが急成長を遂げるための5つの必要条件

Monozukuri Venturesはものづくりスタートアップ企業に対して、投資や試作支援といったサポートだけでなく、様々な事例を調査・分析することから得られたインサイトの発信も行っています。 今回はMonozukuri Venturesのインターンで、京都大学の博士課程でスタートアップ企業について研究している稲田昂弘が、調査から得られたインサイトを共有します。

スタートアップ企業はイノベーションを社会にもたらすために、少ない資源で大きなリスクに挑んでいる。その中で特に急成長を遂げた企業は「ユニコーン」と呼ばれ、昨今メディア等でも大きな注目を集めている。

但し、ハードウェア分野に目を向けると、爆発的な成長を続け「ユニコーン」へと育っていくスタートアップは、まだ一握りしかいない。

「いかにしてユーザーの声に応えるプロダクト開発を続けられるか?」、多くのスタートアップが、爆発的な成長を目指し、この問いに対する答えを求め頭を悩ましている。ソフトウェア業界においては、早いサイクルでトライアンドエラーを繰り返し、サービスの提供価値とマーケットニーズのギャップを埋めていく方法をとるが、ハードウェア・スタートアップの起業家は、フィジカルな「モノ」を相手にするだけに、一回のトライアンドエラーに時間がかかるため、ソフトウェア業界とは異なるマネジメントが必要になる。そして、そのマネジメントの難易度は高くなる。”Hardware is hard”という言葉が使われる所以である。

この問いへのヒントを得るために、本稿では驚異的な成長を遂げたスマートフォン・メーカーXiaomiを取り上げる。事例の分析から、急成長の要因として以下の5つが明らかになった。

1. シリアル・アントレプレナーに率いられたドリームチーム
2. ターゲット層のニーズに合う、デザイン・性能・価格設計
3. ファンの声を反映させた機能・デザインの改善
4. 海外顧客も含めた、明確なターゲティング
5. Xiaomiのデバイス向け製品開発を促す「エコシステム戦略」を推進

本稿の主な目的は、今まさにハードな事業に挑むハードウェア起業家に、急成長を遂げるための必要条件を共有することである。Xiaomiのストーリーとそこから得られた教訓を以下で述べたい。

驚異的な成長を遂げたスマホメーカーXiaomi

Xiaomiは2010年に元キングソフト会長のLei Jun氏ら7人によって中国で創業される。同年にファームウェア「MIUI」を発売し、翌年にはスマートフォン「Mi 1」を発売した。その後も毎年新製品を発売し、2014年には中国最大のスマートフォン・メーカーとなる。また2014年にはフィットネスバンド「Mi Band」の販売を開始し、2017年時点でAppleやFitbitを抜いて世界トップセラーとなる。Mi Bandは、「Miファン」と呼ばれるXiaomi製品の熱心なファンがいることでも知られている。2018年7月に香港証券取引所に上場し、企業価値は528億ドル(約5兆円)に達した。

Figure left: “Mi 1.”Figure right: “Mi Band4.”


写真:左「Mi 1」、右「Mi Band 4」
1) https://en.wikipedia.org/wiki/Xiaomi_Mi_1
2) www.amazon.co.jp/dp/B07SNG23JW

Table: Important Events in the History of Xiaomi

図表:Xiaomiのストーリーにおける重要な出来事

急成長を遂げるための5つの必要条件

このようにXiaomiは創業から8年で約5兆円の企業価値を持つスタートアップ企業へと急成長を遂げた。この驚異的な成功の要因を、創業メンバー、製品の機能・デザインと価格、海外市場への進出、そして「エコシステム戦略」といった観点から以下で詳しく述べる。

1. シリアル・アントレプレナーに率いられたドリームチーム
創業者のLei Jun氏はキングソフトの会長として上場を経験し、2004年に創業したJoyo.comをAmazonに売却。その後もエンジェル投資家として活動するシリアル・アントレプレナーであり、他の創業メンバーもGoogleやMicrosoftといった名だたる企業出身のエンジニアやデザイナーが占めるドリームチームである。創業時の2010年4月に1100万ドル、2010年10月に4100万ドル、2011年10月に9000万ドル、すなわち創業から1.5年で1.5億ドル(約150億円)近くを調達しており、そのスピードは非常に速い。Lei Jun氏はスタートアップ企業の経営の経験が豊富で、投資家とのつながりも豊富であり、また社会的信用も高い。このように成功を約束された創業チームであったと考えられる。
敢えていうと、ソフトウェア開発の経験豊富なメンバーは多かったが、ハードウェア経験のあるメンバーに乏しく、サプライヤーからの信頼を得るのに時間を要した。そのため、最初のスマートフォン「Mi 1」の生産体制構築は、彼らにとってチャレンジなものではあった。

2. ターゲット層のニーズに合う、デザイン・性能・価格設計
Xiaomiは創業の約1年後にMi 1という最初のスマートフォンを発売した。Lei Jun氏は若い頃に「Apple社のスティーブ・ジョブズ氏を見習おうと思った」と語っているように、サプライヤーについても、AppleのサプライヤーであるQualcommやFoxconnを採用している。またデザインもiPhoneを意識しており、Xiaomiの創業メンバーには元大学教授(工業デザインが専門)やキングソフトのUIUXデザインセンターの設立者といった優れたデザイナーを揃えていた。
加えて、同社は中間業者や代理店を排除し、ウェブサイトを通じて直接販売したことで、iPhoneの半分の小売価格(おそよ$300ドル)で販売することができた。当時の中国はまだ急激な経済成長の前夜で購買力が依然として低かったが、優れたデザイン・性能と手の届く価格の両立を実現することで、出荷台数を急速に伸ばすことが出来た。

3. ファンの声を反映させた機能・デザインの改善
当初の主な顧客は、オンラインでの購入に慣れた都市部の若者だと考えられる。そして彼らは「Miファン」と呼ばれるXiaomi製品のファン・コミュニティを形成した。Xiaomiは彼らのフィードバックをもとに、機能やデザインの改善を進めることに力を入れた。例えば、ユーザーに新機能を提案してもらい、それを製品に組み込むかどうかを毎週投票してもらうような取組もしていた。
このような努力を通じ、Xiaomiは初期のユーザーのニーズに徹底的に応えてアジャイルに開発を進め、PMF (product market fit) を短期で達成することができたと考えられる。

4. 海外顧客も含めた、明確なターゲティング
2014年には、創業からわずか4年で6,000万台を販売。中国で1位のスマートフォンメーカーとなる。しかしながら、翌2015年には、OppoやVivoといった廉価メーカーが、オフラインのストアを通した農村部の人々への販売を伸ばしたことにより、中国国内のスマートフォンのシェアがHuawei, Oppo, Vivoに続く4位にまで低下し、販売台数も6,200万台にとどまった。
一方中国国外においては、2014年にはシンガポールで販売を開始し、2015年に進出したインドでは、2017年にシェア1位となる。中国国内でもセカンドラインの投入による少し下の価格帯への進出も好調で、早くから海外展開を含めた明確なマーケティング戦略を持ち、ターゲットとなるセグメントを確実に落としてきているようにも見える。

5. Xiaomiのデバイス向け製品開発を促す「エコシステム戦略」を推進
2014年にスタートアップと共同でHuamiという会社を設立し、フィットネスバンド「Mi Band」を発売(2017年に世界シェア1位)。その後も有力なスタートアップに出資をし、Xiaomiのデバイス向け製品開発を呼び掛ける「エコシステム戦略」を推進する。エコシステム参加企業は、2015年には50社、2017年には100社を超える。日本では現在のところ炊飯器を購入することができる。
このようにXiaomiは出資というインセンティブでメーカーを巻き込み、エコシステムを急速に拡大することに成功した。先のポイントで指摘したようにスマートフォンのシェアを落としているが、家電メーカーに変貌を遂げつつある。Google HomeやAlexaの登場に代表されるスマートホームの浸透という流れにおいて、今後もXiaomiから目を離せない。

本稿では、驚異的な成長を遂げたスマートフォン・メーカーXiaomiの事例を紹介した。Xiaomiは、ドリームチームに率いられ、デザイン・機能と価格を高水準で両立したスマートフォンを開発し、創業からわずか数年で中国トップのスマートフォン・メーカーとなり、その後「エコシステム戦略」を推進し、スマートフォンだけでなく、フィットネスバンド「Mi Band」に代表されるスマートデバイスでも突出した成長を遂げてきた。これらひとつひとつのエピソードから感じることは、Xiaomiの「明確な顧客セグメントに対するPMFを高めていくスピードの凄さ」であり、当事例が示す「急成長を遂げるための5つの必要条件」が、今まさにハードな事業に挑むハードウェア起業家にとって、参考になれば幸いである。加えて、このPMFのスピードの凄さを支えてきた、設計・生産体制、及びサプライチェーンの構築力の凄さについても非常に重要なポイントであるため、また、別の機会で取り上げることにしたい。

注)本稿はCrunchBase, Wikipedia, Harvard Business School Caseならびに以下の記事の情報に基づいて執筆されている。
・Barboza, David, ” In China, an Empire Built by Aping Apple,” New York Times, Jun 4, 2013.
・Kline, David, “Behind the Fall and Rise of China’s Xiaomi,” Wired, Dec 22, 2017.

Takahiro INADA

著者:Takahiro INADA

京都大学 経済学研究科 博士後期課程に在籍。スタートアップ企業の創業プロセスについて研究を行っている。アカデミックなバックグラウンドを活かしながら、Monozukuri Venturesのインターンとして調査・研究を行っている。

株式会社 Monozukuri Ventures(略称: MZV)は、京都とニューヨークを拠点に、ハードウェア・スタートアップへのベンチャー投資ファンドの運営と、ハードウェアの試作・製造に関する技術コンサルティングを提供する企業です。
2020年1月に、Makers Boot Campを運営する株式会社Darma Tech Labs(京都市)と、FabFoundry, Inc.(ニューヨーク市)が、2社のハードウェア・スタートアップ支援の経営資源を結集して発足しました。MZVが運営するMBC試作ファンドは2017年夏に発足し、これまでに日米のハードウェア・スタートアップ37社(日本16社、米国19社)に投資しています。また、試作から量産に至るまでの知見とネットワークを活かし、技術コンサルティングを提供しています。スタートアップを中心に現在に至るまで100件以上のプロジェクトを支援しています。(数値はいずれも2021年3月末時点のもの)

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