私たちがスタートアップの街として注目する都市:ニューヨーク&ピッツバーグ

Makers Boot Camp代表の牧野です。

「スタートアップ」といえばやはりシリコンバレーがあるアメリカ西海岸が真っ先に頭に浮かびますが、アメリカの東海岸にも、スタートアップの街として急成長している都市があります。今回は、2019年5月13日~2019年5月17日に開催した「アメリカ東海岸視察ツアー」で実際に見聞きしてきたこと、また2017年から私たちが注目して投資をしている地域であるアメリカ東海岸の都市、ニューヨークとピッツバーグについてご紹介します。

アメリカ東海岸視察ツアーの訪問先をまとめたビデオ (制作:Darma Tech Labs)

Makers Boot Campが注目する東海岸のスタートアップ

ニューヨークとピッツバーグについて詳しくお話しする前に、私たちMakers Boot Campがいままで行ってきた、東海岸での取り組みについて説明します。

Makers Boot Campはハードウェアスタートアップをサポートするために、投資ファンドの運営とモノづくり(試作と量産化)のコンサルティングサービスをしています。投資対象は日本とアメリカのハードウェアスタートアップで、2017年7月のファンド設立から、これまでに日本では9社、アメリカでは10社に、それぞれ投資をしてきました。

後で詳しく述べますが、アメリカの東海岸には、工学系の大学も多く、また東海岸から五大湖周辺の中西部には、自動車産業など製造業で発展した都市が多く、モノづくりと関連するエコシステムが、大学と密接に連携しながら存在しています。

こうしたことから、日本ではシリコンバレーと比べて注目度が低い東海岸の中でも、モノづくりに馴染みがある都市にフォーカスして、投資を実施してきました。

またシリコンバレー、特にサンフランシスコは家賃や給料は全米一の水準で、ハードウェアスタートアップが着実に成長していくには厳しい環境です。物価が高いニューヨークも、今では家賃などはサンフランシスコよりも安く、またエンジニアの給料も、シリコンバレーほど高くありません。また優秀な大学は東海岸に集積していますが、物価がそれほど高くない都市も少なくありません。

このような理由から、わたしたちは東海岸という地域に注目し、スタートアップへの投資を進めてきました。

その一方で、2017年からは日本から世界に挑戦するハードウェアスタートアップへの門戸を開こうとの想いから「Monozukuri Hardware Cup」というハードウェアスタートアップ向けピッチコンテストを毎年開催しています(主催はモノづくり起業 推進協議会。Makers Boot Campは協議会の主要メンバー)。過去3回は、大阪市が開催するグローバルカンファレンス「Hack Osaka」と連携して開催し、毎回3社のスタートアップを、Hardware Cupの世界決勝が行われるピッツバーグと、Demo Dayが行われるニューヨークという、2つの東海岸の都市に送り出してきました。ピッチコンテストへの応募スタートアップの数は、3回でのべ100社近くにのぼり、コンテストは回を重ねるごとに盛り上がっています。

2019年3月に開催されたMonozukuri Hardware Cupの様子(写真:モノづくり起業推進協議会)
参考リンク:「Monozukuri Hardware Cup」アメリカでの決勝大会に進出するスタートアップ3社が決定(モノづくり起業推進協議会)

東海岸のスタートアップシティ① ニューヨーク

さて、ここからはそれぞれの都市について詳しくお伝えしていきます。

ニューヨークがスタートアップシティとして注目を浴びるようになったのはここ10年での話です。この短期間の急成長により、2018年にはスタートアップへの投資額はアメリカの中で第2位(1位はもちろんシリコンバレーにあるサンフランシスコ)になりました。約7000社の企業が拠点を置き、ニューヨークは世界第2のスタートアップシティと呼ばれるようになったのです。

現在のニューヨークの風景 (写真:Darma Tech Labs)

かつて、ニューヨークは大企業や金融中心の都市であり、スタートアップシティとしては、同じ東海岸にあるボストンには遠く及ばない地域でした。

転機となったのは2008年の金融危機(いわゆる「リーマン・ショック」)。ニューヨークは一時、30%を超える失業率になり、多くの企業がオフィスを閉じたことによって、ビルの空きテナントが一気に増えました。

これを機に、今までの産業構造からの多様化を目指し、ブルーンバーグ市長をはじめとする行政が旗振り役となり、スタートアップを奨励・優遇する流れが始まりました。大量に空いたオフィスビルをスタートアップに開放するコワーキングオフィスが急増し、行政や大企業などが中心になって、インキュベーターやアクセラレーターが続々と生まれました。今では100社以上のインキュベーター、200社近いアクセラレーションプログラムが存在しているそうです。

ニューヨークには大手企業のコーポレートVCなども含めて、200社近くのVCが拠点を置いており、最近では、大企業とスタートアップのオープンイノベーションのベストプラクティスを目指すために、インキュベーターやアクセラレーターの横の連携を強化する動きが活発化しています。また、マンハッタンの東を流れるイーストリバーに浮かぶ小さな島(ルーズベルト島)に、コーネル大学の大学院を誘致し、イスラエル工科大学との共同研究所を置くなど、スタートアップエコシステムの強化にも取り組んでいます。

参考リンク:世界で最も急成長するスタートアップ都市 ニューヨークで起こっていること(Peatix) 世界第二の起業都市(スタートアップ・シティ)に変貌したニューヨーク(JETRO/IPA New York

今回のツアーでは、アクセラレーターを中心に、下記を訪問してきました。

  • Entrepreneurs Roundtable Accelerator(ERA)
ERAのManaging Partner Murat Akitihanglu氏

ニューヨークでスタートアップ向けのアクセラレーションプログラムと海外企業向けのUSマーケットエントリープログラムを展開するアクセラレーター。アクセラレーションプログラムでは、これまで17回のプログラムを行っており、そのDemo Dayは東海岸最大級となっています。毎回1000社を超える応募があり、その中から14〜15社程度が採択され、強力なメンター陣のサポートが受けられます。また、通常スタートアップの資金調達の成功率は30%程度ですが、ERAの採択企業はなんと90%が資金調達に成功しています。また日本企業との繋がりも強く、 三井住友銀行けいはんなリサーチコンプレックス とも連携しており日本企業向けのプログラムも実施した実績があります。

ニューヨークのハードウェアスタートアップのインキュベーターとして2006年にニューヨーク市立大学のLaGuardia Community College内に設立されました。スタートアップは3年間のオフィス利用やNYDesignsが抱えるメンターやアドバイザーにアクセスすることができます。また5,000平方フィートのファブラボも有しておりデザインやアイデアの試作も可能です。現在は約14社~15社のハードウェアスタートアップが入居しています。

ニューヨークの大企業やコーポレート・アクセラレーター向けに、オープンイノベーションのコンサルティングやイベントを実施しています。

フランス発、世界中でインキュベーションプログラムを展開するアクセラレーター。各地域のエコシステムのプレイヤー等と連携できる、インターナショナルのファウンダー向けのプログラムを提供しています。またインターナショナルなファウンダーが直面しがちな、ビザの取得や法律の問題、また人材の採用方法などを集中的にサポートするプログラム内容で、世界中からファウンダーを募集しています。プログラム自体は約3ヶ月でこれまで150社以上のスタートアップやプロジェクトを輩出しています。

東海岸のスタートアップシティ② ピッツバーグ

次に、ピッツバーグのご紹介をします。

ピッツバーグは山や川に囲まれた自然豊かな地域で、かつては鉄鋼業のUSスチールが本社を置くなど、鉄鋼の街として非常に栄えた都市でした。しかし、1960年代から、鉄鋼産業の衰退に伴い街の活力も失われ、いわゆる「ラストベルト」と呼ばれる地域の1都市となりました。

クラシックな外観の建物が建ち並ぶピッツバーグの町 (写真:Darma Tech Labs)

活力が失われた街を復興するために注目された手法の一つが、スタートアップの振興でした。カーネギー鉄鋼会社(後のUSスチール)の創業者であるアンドリュー・カーネギー氏が設立したカーネギー工科大学と、アンドリュー・メロン氏が設立したメロン大学が合併して出来たカーネギーメロン大学と、ピッツバーグに多くの病院を持ち医療分野に強いピッツバーグ大学が中心となり、地域ぐるみで起業家教育やスタートアップ向けのインキュベーション、アクセラレーションプログラムが展開されるようになりました。

カーネギーメロン大学は、コンピュータサイエンスの分野では世界トップレベルの地位を確立しています。そのうえ、ロボット工学と人工知能(AI)の分野で強みがあり、全米ARM(製造向け先進ロボット工学研究所)の本部もピッツバーグに存在します。ピッツバーグのテック系エコシステムではこのカーネギーメロン大学の影響もあり、ロボットやAI等の最先端の技術に基づいたスタートアップが多いののも大きな特徴です。

起業家教育が盛んなカーネギーメロン大学のビジネススクールの校舎 Tepper Quad。
2018年に建てられたばかりの新しい校舎。

最も注目されている「自動運転」の技術開発拠点として、ピッツバーグを選んでいる企業も少なくありません。配車サービスを展開するUberの自動運転技術開発の拠点はカーネギーメロン大学の中にあります。また自動車メーカーFordの自動運転研究部門Argo AIも、ピッツバーグに社屋を構えています。

一見するとロボットやコンピューターサイエンスは、自動車の自動運転と関係が薄いように見えます。しかし、ロボットは自律的な動作が基本であり、AIに実装にはコンピューターサイエンスは欠かせません。こうした基礎的な技術の蓄積があるピッツバーグに、スタートアップから大企業までが押し寄せているのは、日本からはなかなか分からない流れだと思います。

今回のツアーでは、ピッツバーグのエコシステムの中心となるカーネギーメロン大学やアクセラレーターに訪問してきました。

Hardware Cup

Hardware Cup Finals 2019の入賞者

世界中でハードウェアスタートアップに成長の機会を提供しようと2015年からピッツバーグのハードウェアアクセラレーター「AlphaLab Gear」が企画運営するハードウェアスタートアップのピッチコンテスト。5年目の今年はアメリカ国内の7地域とグローバルの4地域(日本、韓国、香港、インド)で予選を勝ち抜いた計12社がピッツバーグに集まりグランドチャンピオンをかけて戦いました。優勝はスーパーやショッピングモール等の屋内用位置情報サービスを展開するスタートアップYodel Labs社が選ばれました。

登壇スタートアップ(登壇順)

  • TouchLight Innovations (アメリカ):太陽光パネル/ストレージ等のソリューションサービス提供
  • VitalFlo (アメリカ):発作ぜんそくのモニタリング予知デバイス
  • Artisan and Ocean(韓国):ダイバー用デバイス
  • Ava Grows (アメリカ):スマートガーデン
  • Noninvasix (アメリカ):スマート酸素マスク
  • Stak (日本):電球につけるだけで家電操作可能なデバイス
  • Eve Labs (インド) :スマート点滴デバイス
  • DASH Systems (アメリカ):緊急時の荷物配送サービス
  • AlgenAir (アメリカ):バイオマスを活用した空気清浄デバイス
  • Equals (香港):缶パッケージマシン
  • Yodel Labs (アメリカ):屋内用位置情報サービス
  • Psyonic (アメリカ):スマート義手

AI & Robotics Venture Fair

(写真:Darma Tech Labs)

カーネギーメロン大学(CMU)とInnovation Worksが運営する投資家向けカンファレンス。AIやロボットのスタートアップ20社のプレゼンテーション、またCMUの研究者やスタートアップによるパネルセッション等の内容で構成されています。

AlphaLab Gear

ピッツバーグを拠点とするハードウェアスタートアップ向けのアクセラレーター。毎年10社程度のスタートアップのサポートを行っています。全米のトップ25アクセラレーターにも選ばれています( http://seedrankings.com/#rankings )。

AlphaLab Gearは、母体であるアクセラレーターAlphaLabのハードウェア部門(写真:Darma Tech Labs)
AlphaLab Gear Managing DirectorであるIlana Diamond氏(画面奥)とツアー参加者(写真:Darma Tech Labs)

今後も東海岸に注目してください

いかがでしたでしょうか。

シリコンバレーとはまた違う特徴を持った東海岸のスタートアップエコシステムに、日本もまた学ぶ点が多いはずです。

Makers Boot Campは、引き続きハードウェアスタートアップがより活躍できる世界を目指して活動していきます。

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