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#008_日本企業のオープンイノベーション戦略–製造業の新たなる挑戦の時代–

Monozukuri Ventures(以下、MZV)代表の牧野です。 以前、「製造業におけるオープンイノベーションの取り組み方」を書いたところ、色々な質問があり、改めて日本企業におけるオープンイノベーションに対して感じることをお伝えしたいと思います。 まず昨今、製造業企業ではオープンイノベーションがホットキーワードになっています。オープンイノベーションを象徴する取り組みとしてコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)がありますが、ハードウェアに投資している日本企業のCVCファンドを調査したところ、2018年からその数が急激に増えてきています。

出典:【Monozukuri Ventures】 CVCレポート(2023年4月)

なぜ日本の製造業企業のCVCが急激に増加したのか、この点を掘り下げてみたいと思います。 1996年にEngines of Innovation: U.S. Industrial Research at the End of an Era(日本語タイトル:中央研究所の時代の終焉)が出版されました。この本はアメリカを中心に大企業で研究開発(R&D)予算が削減されていることを著した書籍でした。ただ重要なのはこの縮小されたR&D予算がスタートアップへの出資に切り替わっており、これまでの自前主義からスタートアップに研究開発を開放して、新規事業やイノベーションを生むというのが1つの結論となります。 2003年にカリフォルニア大学バークレー校のチェスブロー博士が組織内部のイノベーションを促進するための概念として「オープンイノベーション」という言葉を提唱して、この言葉が普及するようになりました。オープンイノベーションとは意図的かつ積極的に内部と外部の技術やアイデアなどの資源を活用することで、組織内で創出したイノベーションを組織外に展開する市場機会を増やすことであると言われています。 これらの書籍で言及されているように米国等の海外の大手企業ではスタートアップとの出資/M&Aを通じて研究開発までを外部で行い、事業開発以降を自社が担うという形でオープンイノベーションが進められました。現在、イノベーティブと言われる企業でも、倒産の危機に対して全社をあげてオープンイノベーション(スタートアップとの連携/M&A)に取り組み、事業内容や組織風土を大きく変貌させてきました。 弊社の投資責任者である関は日経ビジネスへの寄稿の中で、Googleのオープンイノベーション戦略に言及しており、「新規分野に参入するにあたり、買収したスタートアップのサービスをそのまま使うのではなく、そのスタートアップのチームに、グーグルのサービスとして再構築させることが多い」とも述べています。 では現在の日本の製造業企業のオープンイノベーションはどうでしょうか? 日本企業のオープンイノベーションを見てみると、元来大学の研究室に対して共同研究や寄付講座等を通じて、基礎研究の発掘(=外出し)を進めてきました。この基礎研究の次のステップである研究開発や事業開発は企業内で進めるやり方で新規事業を生み出してきました。ただこのやり方では新規事業を効率的に生み出せなくなってきており、米国同様にCVCを活用して、スタートアップへの研究開発の外出しを始めるようになったのではないかと思います。 ここで重要な点は、CVCはあくまでも手段であり、Googleの事例のようにオープンイノベーションの本来の目的である「市場機会を増やすこと(ビジネス化・製品化できているか)」に貢献しているかにあります。この点に関してCVCの担当者と話をする機会がありますが、ビジネス化や製品化には苦戦しているようです。リクルート社が調査したレポート「オープン・イノベーションを成功させる組織のあり方(2019年)」の中でも、①情報収集が限定的 、②連携の仕組みがない等の課題が挙げられています。こうした課題に対して如何にしてオープンイノベーションに取り組んだら良いかは「製造業におけるオープンイノベーションの取り組み方」でお伝えしましたが、日本企業として、ビジネス化や製品化を見据えて、CVCやM&Aも組み合わせながら、本当の意味でオープンイノベーションに取り組むときが来ていると感じています。 昨今、世界情勢が不安定になる中で、製造業領域でのオープンイノベーションの取り組みはスタートアップ(特にディープテック)にとっても関心事項になっています。例えば私達の投資先である半導体材料を開発するArieca社(@米国ピッツバーグ)は量産パートナーや最初の顧客として日本市場に狙いを定め、日産化学社やローム社と協業することでグローバル・マーケットへの足がかりを作ろうとしています。またEdge AIを開発するEdgeCortix社(@シンガポール)は自動車や生産設備をターゲットに日本に開発拠点を設け、昨年はソフトバンク社やルネサス社との連携を進めています。海外のスタートアップにとって日本の製造業企業との事業連携は一段と事業ステージを上げる事に貢献しており、ここに「製造業イノベーション」が生まれる可能性があると感じています。 ※参考:弊社の投資責任者 関の日経ビジネス寄稿【ディープテック系スタートアップへの投資が日の丸製造業を救う】

こうした活動をより多くの日本企業に体感してもらいたいという想いから、「世界のディープテックスタートアップは日本を目指せ」を合言葉にDeep Tech Forumというイベントを立ち上げました。 3月にはDeep Tech Forum Kyotoを開催しました。今後も継続して開催予定ですので、日米のディープテックスタートアップとの連携や本当のオープンイノベーションを生み出したいと思っている方々は是非ご参加お待ちしています。Deep Tech Forum Kyoto2024 開催レポート

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Monozukuri Ventures CEO。愛知県出身、京都に住んで17年。ずっと関西中心にスタートアップに関わる仕事をしています。今は京都の梅小路エリアにてスタートアップ、アーティスト、クリエイターが集うような街づくりにも挑戦中。2児の父親として育児も頑張ってます!!

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