#013_事業会社がLP出資とCVCの両方を活用する重要性

2025.04.03 By MAKINO

Monozukuri Ventures(以下、MZV)代表の牧野です。 近年、日本企業におけるオープンイノベーションの重要性が高まる中、コーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)やLP出資を活用するアプローチが注目されています。これまでの日本企業の多くは、CVCかLP出資のどちらか一方に偏る傾向がありました。しかし、成功事例を見てもわかるように、CVCやLP出資両輪での運用こそがオープンイノベーションを最大化する鍵となります。本記事では、CVCとLP出資の役割の違いと、それらを併用することの重要性について解説します。

日本でのCVCの存在感

日本ではスタートアップ、そしてベンチャーキャピタル(VC)が注目されていますが、実はコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)が大きな存在感を持っています。一方で、CVCを設立しても専門性の違い等からなかなかスタートアップとの連携が進まないということで、独立系VCにLP出資するというケースがあります。私は約20年、日本のスタートアップに関わってきましたが、多くの企業がCVCとLP出資を繰り返しながらスタートアップとの接点を作ろうとしているという状況です。私達が運営するファンドにも多くの事業会社の方々に出資いただいていますが、ハードウェア・ハードテック・ディープテックのスタートアップとの連携に関しては、CVCとLP出資、それぞれ役割が異なるのではないかと感じています。

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CVCとLP出資の役割の違い

CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)とLP(リミテッド・パートナー)出資は、企業がスタートアップエコシステムと関わるための異なる手法ですが、それぞれに異なる役割があります。

CVCの役割

・企業が直接スタートアップに投資し、戦略的シナジーを生み出す。 ・事業部門との連携を深め、技術やビジネスモデルを自社に取り入れる。 ・インキュベーション機能を持ち、スタートアップの成長を支援する。

LP出資の役割

・VCファンドに資金を提供し、広範なスタートアップ情報を取得する。 ・直接的な経営介入はせず、投資のリスクを分散させる。 ・グローバルなスタートアップネットワークにアクセス可能にする。

図解によるCVCとLP出資の活用方法

1.LP出資(VC経由の情報収集)

図の左側にある「LP出資」は、スタートアップの情報を収集するための手段として活用されます。 ・VCを通じて幅広いスタートアップとの接点を持つ。 ・日本国内外、各ステージ(Seed, Early, Mid)に対応可能である。 ・情報収集が限定的にならないように、複数のVCにLP出資するのが理想である。

2. CVC(投資+事業開発)

図の中央部分では、CVCが投資を行うことで、事業開発や人材育成の役割を担っています。 ・事業シナジーのあるスタートアップへの直接投資する。 ・PoC(概念実証)を経て、成功した場合にCVCとして資本を投入し、コミットメントを強化する。 ・事業部門へのつなぎ込みを意識した支援体制を構築する。

3. 事業部門へのつなぎ込み

図の右側にある「事業部門(M&A)」への移行が、最終的なゴールとなります。 ・CVCが事業部門と連携し、スタートアップの技術を事業に統合する。 ・投資だけでなく、事業化を促進するインキュベーション機能が重要である。 ・事業開発や人材育成とセットで進めることで、成功確率が向上する。

CVCとLP出資の併用によるオープンイノベーションの強化

オープンイノベーションを成功させるためには、投資を通じた情報収集と連携の仕組みが必要不可欠であり、その重要性は学術論文等でも議論されています。例えばHill & Birkin\b0\b0shaw (2014) は、CVCが成功するためには、企業の内部(シニアエグゼクティブやビジネスユニットのマネジャーなど)と外部(独立系VCファンドなど)の双方と強力な関係を構築することが不可欠であることを実証しました。またSouitaris & Zerbinati (2014) もCVCが他社と共同で出資(いわゆるシンジケーション投資)を行う際には、独立系VCと組むことで、補完的なリソースやベネフィットが得られると述べています。このようにCVCと独立系VCへのLP出資にはそれぞれ異なる強みがあり、それらを組み合わせることで、オープン・イノベーションの実現に近づくといえるでしょう。

①情報収集の強化(LP出資)

LP出資を通じて、企業は幅広いスタートアップ情報を取得できます。特に、複数のフォーカス領域(地域や産業)が異なるVCにLP出資を行うことで、幅広い情報が得られます。情報の精度にはばらつきがあるものの、年間数千件規模のディール情報を取得することが可能です。例えば、複数の小規模なVCに数億円ずつLP出資すれば、年間3,000〜4,000件のディール情報を確保できるルートが構築できます(もちろん重複はありますが、それでも情報網は格段に広がります)。

②事業連携の仕組み(CVCによるインキュベーション)

LP出資を通じて得た情報をもとに、関心のあるスタートアップとPoC(概念実証)を開始し、PoCの成功を受けてCVCから出資することで、お互いのコミットメントを高めることができます。LP出資を通じて収集した情報を直接事業部門へつなげるのは難しく、その橋渡しをするのがCVCの役割です。

③事業化を加速する体制

CVCは単なる投資窓口ではなく、スタートアップの事業化をサポートする役割を果たします。特に、事業部門がCVCの支援を受けながら新規事業を推進する体制を整えることが重要です。また、事業連携のノウハウが一定程度蓄積されれば、CVCの役割を一部内製化することも可能になります。実際に、武蔵精密、CAC、ヤンマー、ロームといった企業では、LP出資とCVCの組み合わせを活用しつつ、事業連携のプロセスを自社内で進める取り組みが成果を上げています。

まとめ:オープンイノベーション成功の鍵はCVCとLP出資の両輪運用

日本企業がLP出資のみやCVCのみのため「情報収集」と「事業連携」も中途半端になっています。「LP出資」+「CVC」の役割を意識し、LP出資では情報収集に注力、CVCでは事業連携に注力することで効率的にオープンイノベーションが進んでいくと考えています。

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Monozukuri Ventures CEO。愛知県出身、京都に住んで17年。ずっと関西中心にスタートアップに関わる仕事をしています。今は京都の梅小路エリアにてスタートアップ、アーティスト、クリエイターが集うような街づくりにも挑戦中。2児の父親として育児も頑張ってます!!

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