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#005_MZVの軌跡とこれから – 製造業のオープンイノベーションに貢献 –
Monozukuri Ventures(以下、MZV)代表の牧野です。
MZVの前身となるDarma Tech Labsの設立(2015年8月)から、まもなく丸8年が経とうとしています。またMZVは3月決算のため、この4月から第9期がスタートしており、先日の全体会議でこれからの会社の方向性を話す機会がありました。
今回のブログでは、MZVのこれまでの軌跡とこれから目指す方向について、ブログを読んでくださっている皆様にもお伝えしたいと思います。
MZVの軌跡
1. 1stステージ(2014-2017) - Makers Boot Campの立ち上げ
まずMonozukuri Venturesの前身となるDarma Tech Labsの設立の経緯から少し触れたいと思います。
2010年頃からのメイカーズムーブメントによりハードウェアやIoTのスタートアップが増えていました。一方、ハードウェアスタートアップが量産化、特に量産化前の量産設計に苦労しているという気付きがありました。
また私は関西/京都からベンチャーキャピタル(VC)のキャリアをスタートさせ、一貫して関西でのスタートアップ支援に拘りがありました。
そんな中、スタートアップが抱える量産試作の課題と関西の強みの一つである製造業とを組み合わせれば世界的にも強みのあるVCになるのではないかと思うようになりました。そこで着目したのが京都の試作のプロ集団である京都試作ネットとの連携でした。京都試作ネットの方々に「京都を世界中のモノづくりベンチャーの都にしたい」と訴え、私がお世話になったVCの方々にサポートしていただき、Darma Tech Labsが立ち上がりました。
Darma Tech Labs創業メンバー(2015年):左から藤原(ハカルス代表)、牧野、竹田(クロスエフェクト代表)
スタートアップを支える理由は金もうけのためじゃない——「京都試作ネット」キーパーソン竹田正俊氏(クロスエフェクト)に聞く
ただ最初からVC業務をする資金はありません。
最初はスタートアップが抱えている試作課題に対して適切なサービスを提供出来るのか、ここからスタートしました。そうした中で考えたのが「Makers Boot Camp(MBC)」というアクセラレーションプログラムの提供です。スタートアップに対して京都試作ネットを中心とする製造業のプロの方から事業内容の紹介やものづくりの課題等を講義するプログラムを開始しました。
第1期には6社のスタートアップが参画してくれ、2015年9月から毎週、京都で開催。12月にはそのDemo Dayを迎えることが出来ました。ただプログラムを運営する中で、スタートアップ毎に抱える課題が大きく異なり、プログラム形式よりも、1社1社のニーズに応えていったほうが有効という想いが強くなってきました。そこで第2期の募集はしましたが、結局、開催せずにこの1回が唯一の開催になってしまいました。
- 2015年9月 日本初 量産化試作を前提としたものづくりベンチャー支援プログラム「Makers Boot Camp」が始動(2015年8月)
- 開発試作のプロ集団「京都試作ネット」を中心にものづくりベンチャー支援プログラム「Makers Boot Camp」を運営する株式会社Darma Tech Labsに資本参加(2015年12月)
2. 2ndステージ(2017-2020) - テクニカルサービス開始と試作ファンド設立
MBCを展開する中でスタートアップと製造業企業との間に様々なギャップ - 考え方、スピード感、文化等 - があることが分かってきました。ここに多くの無駄があると感じ、両者の間に入って翻訳通訳する役割の必要性を感じるようになりました。
そこで2017年から大手製造業企業で経験を有する方々を採用してテクニカルチームの体制を作り始めました。彼らも最初はスタートアップとのやり取りに苦労しましたが、今ではスムーズにスタートアップの課題解決が出来るようになり、190件以上の試作や量産化のプロジェクトに関わることが出来るようになりました(2023年3月末時点)。
この中にはスマートショッピングのように短時間で量産の立ち上げに成功するプロジェクトが幾つか出てきています。またモノづくりに全く知見がない人でもアイデアを素早く形にできる場所「Kyoto Makers Garage」も京都市と連携して立ち上げました。
試作支援したスタートアップが順調に試作から量産化に進み資金調達に成功しはじめており、資金ニーズにも迅速に応えることでより成長を加速出来るのではないかと考えベンチャーキャピタルファンドの組成にチャレンジしました。
その結果、世界的にも珍しい試作支援と投資を組み合わせたベンチャーファンドのコンセプトが生まれました。もちろん簡単ではありませんでしたが、私達が目指すビジョン等に共感いただき、金融機関からは京都銀行、また製造業企業からDMG森精機がアンカーとなり、2017年7月にMBC試作ファンド(1号ファンド)が立ち上がりました。2018年7月に約20億円でファイナルクローズを行い、1号ファンドからは日本16社、アメリカ18社の計34社に出資をしました。
MBC試作ファンドの設立記者発表(2017年3月):左から名高氏(名高精工所代表)、竹田(クロスエフェクト代表)、牧野、仲(京都銀行専務(当時))
- ハードウェア・スタートアップ特化型アクセラレータ「Makers Boot Camp」運営、京都銀行をアンカーLPとして20億円規模のファンドを組成(2017年3月)
- 京都発”Shisaku”ファンドの狙い モノづくりを変えるMakers Boot Campの挑戦(2017年8月)
- 量産化試作を支援する『MBC試作ファンド』20億円超でクローズ / ベンチャー向けサプライネットワーク構築で支援体制強化へ(2018年7月)
- 日本の試作力を開放 モノづくりベンチャーの「死の谷」を越える(2018年9月)
- ハードウェアこそが、日本が世界で戦える武器になる——Makers Boot Campの挑戦(2018年11月)
- 日本企業の活路は“世界のものづくり支援”にある(2019年8月)
3. 3rdステージ(2020-2023) - Monozukuri Ventures設立と米国展開の加速
1号ファンドでの経験を通じて米国でのスタートアップの数の多さとスピード感に圧倒されました。Darma Tech Labsを立ち上げた時にグローバルに挑戦したいという想いがあり、1号ファンドではNYCを拠点にハードウェアスタートアップを支援するFab Foundry社と共に事業を展開していました。スタートアップが新しい社会を作る原動力になる、そして日本の製造業はもっと貢献できるという同じミッションやビジョンを持っていたことから両社を経営統合しようという話が出ました。
お互いが小さな会社、ましてや日米の会社の経営統合と簡単ではありませんでしたが、2020年にMonozukuri Ventures(MZV)としてスタートを切ることが出来ました。その時に一番議論したのが、MZVのフィロソフィ(ミッションやビジョン)です。「モノづくりは、簡単だ」という一文はその時に出てきた言葉ですが、私達が目指す社会を示しており、すごく気に入っている言葉です。
- ハードウェア・スタートアップを日米で支援「Monozukuri Ventures」発足(2020年1月)
- 「Monozukuri Ventures」が考える日本のものづくりの生存戦略ーー世界中のスタートアップが「死の谷」を越えるために(2020年3月)
これを契機に米国での展開を加速すべく人員の拡充を図りました。私達の拠点となるNYCに加えて、シリコンバレーを中心とした西海岸のメンバーをベンチャーパートナーとして採用しました。
また1号ファンドで投資先が多かったピッツバーグを中心とする中西部での体制強化にも乗り出しました。よく東海岸や中西部の話をすると「なぜ西海岸ではないのですか?」と聞かれますが、五大湖を含む中西部はアメリカの中でも製造業が集積するエリアでした。こうした産業基盤を背景にハードウェアやハードテックのスタートアップも多く生まれており、新しい製造業の技術が生まれているエリアとして注目されています。錆びついた工業地帯「ラストベルト」から、全米有数の「起業の街」へと蘇ったピッツバーグ【ゲスト寄稿】(2017年6月)
HardwareCup Finals 2017 in Pittsburgh
こうした米国での新しいモノづくりの動きが日本の製造業企業にとっても非常に有益ではと感じるようになり、2021年1月に2号ファンドを設立しました。2号ファンドではIoT領域に加えて、材料やソフトウェア領域を含む製造業技術にも投資エリアを拡大しました。併せて試作支援に加えて、特に米国スタートアップの日本での展開を支援する事業開発を支援する体制を構築しました。
2号ファンドからは日米20社超のスタートアップに投資をしていますが、米国スタートアップと日本企業との連携事例が出始めてきました。ピッツバーグに拠点を置き放熱特性に優れた半導体材料を開発するArieca社は量産化パートナーを探していました。そこで私達MZVが投資と共に日本での量産パートナー探しを始め、日産化学社に行き着きました。その後、日産化学との製造契約を締結して同社での製造がスタートしています。
Monozukuri VenturesがAriecaに追加出資。日産化学、米412 VFがリードするシリーズAに参加(2022年6月)
4. 4thステージ(2023-) - 日本の製造業のオープンイノベーション促進
最後にこれからのMZVの目指す方向をお話してみたいと思います。
MZVは試作支援というイメージが強くありますが、試作支援だけでは「モノづくりは、簡単だ」を達成するには機能が足りていないということが分かってきました。これまでの経験や実績を通じて、スタートアップにとって少量生産(1000個を早く安く)と事業開発(どのように売るのか)も大きなネックになっていることが分かってきました。
少量生産に関しては、地域の金融機関や企業と連携して京都駅北西の梅小路というエリアに少量生産の拠点を作ろうとしています。このエリアは京都の中央卸売市場のある場所ですが、市場の取扱高減少に伴い卸業者が廃業しており空き倉庫が増加していました。こうした空き倉庫を活用してデジタルマニュファクチュアリング等を軸としたクリエイティブな拠点づくりに取り組んでいます。
イノベーションの聖地としての可能性、「京都B面」梅小路エリアとは?(2022年12月)
またスタートアップの事業開発に関しては、日本の製造業企業もスタートアップから新しいアイデアや技術を導入したいという意向が年々高まってきています。スタートアップと日本の製造業企業は補完関係にあり、ここをスムーズに繋げ、事業を共に創っていくことが出来たら、新しいイノベーションが生まれるのではないかと感じるようになってきました。
キーワードは「製造業のオープンイノベーション」です。大企業の新規事業創出に貢献する「Kyoto Acceleration Program」も開始しており、このオープンイノベーションを起点とした新しいビジネスの構築に貢献して、MZVのビジョンである「モノづくりは、簡単だ」を達成していきたいと考えています。
高知県大豊町の日本一の大杉「出世杉」(2022年8月)
- 大規模レイオフの裏で進む米テック大手の次なる一手(2023年3月)
- 「イノベーションのジレンマ」と戦ってきたグーグルへの誤解(2023年4月)
- 補足:DTL時代のプレスリリース一覧
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Monozukuri Ventures CEO。愛知県出身、京都に住んで17年。ずっと関西中心にスタートアップに関わる仕事をしています。今は京都の梅小路エリアにてスタートアップ、アーティスト、クリエイターが集うような街づくりにも挑戦中。2児の父親として育児も頑張ってます!!